ヒューリスティックと情報デザイン

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ヒューリスティックとは、人が意識することなく用いている問題解決方法である。いわゆる「経験則」とほぼ同義と考えられる。ヒューリスティックを理解し、うまく利用すると、発信する情報の伝達度や影響力を高めることができる。

ヒューリスティックとは

問題解決や意思決定の際に、論理的な計算やルールに基づくことなく、暗黙のうちに用いている簡便な解決方法のことを指す。「経験則」と同じ扱いをされることが多く、ほぼ同義である。

ヒューリスティックの研究が進むまでは、人の学習や経験に基づく判断は正しいとされていた。しかし人の判断には様々な偏り(バイアス)が存在し、その正確さは完全ではないことが明らかになっている。

ヒューリスティックのメリットとデメリット

メリット
ある程度以上の精度で正解に近い答えを得ることができる
答えに至るまでの時間が短い
デメリット
必ずしも正しい答えを得るわけではない
答えに一定の偏りを含んでいることが多い

人はなぜヒューリスティックを使うのか

情報量が少ない場合
判断に用いることのできる知識、経験、情報量が少ない場合。
情報量が多すぎる場合
判断に用いなくてはならない情報量が多すぎる場合。情報過多の状態。情報処理能力が十分ではない場合も含む。
時間に制約がある場合
意思決定までの時間が限られている場合。

様々なヒューリスティック

係留と調整ヒューリスティック

係留と調整ヒューリスティックとは
その時点で手に入る情報から推測すること。最初の情報に現れた特徴を重視しやすい。「係留」は「アンカリング」ともいう。
係留と調整ヒューリスティックの例
コンビニ利用客のうち、男性の占める割合はX%より多いか少ないか?という質問をされた場合、提示される「X」によって得られる答えの傾向が変化する。
情報デザインへの応用
人は直前に提示された情報の影響を受けやすい。誘導したい結果が決まっている場合、ストーリーの序盤に同じ傾向をもつ別の情報を提示する方法はよく用いられている。例えば健康食品を売りたい場合は、直前に運動や医療、自然など健康を想起させる物語を提示するとよい。

利用可能性ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティックとは
情報を得やすい事柄(物理的利用可能性)や、想起しやすい事柄(認知的利用可能性)を優先して評価しやすい。
利用可能性ヒューリスティックの例
インターネットで探して見つからなければその情報は得られない、と思い込む。(物理的利用可能性)
英語は難しい言語である、と思い込む。(認知的利用可能性)
情報デザインへの応用
情報を伝えるターゲットの情報リテラシーや行動シナリオから、触れるメディアや前後に接触したであろう情報を推測し、それを踏まえて情報を構成する。例えば「50代・男性・会社役員」には新聞を情報発信源とし、ゴルフ、経済などの話題を切り口とした構成にする。

感情ヒューリスティック

感情ヒューリスティックとは
好き嫌いだけで意思決定をし、理由を後付けする。
感情ヒューリスティックの例
学校や会社などの組織でおこる「贔屓」による評価。
情報デザインへの応用
ほぼ同等の内容であっても、好き嫌いの感情だけで情報の認知度や理解度は大きく変化する。例えば、広告に登場させるキャラクターには悪役イメージのあるハイエナや蛇ではなく、愛玩動物であるネコやイヌを用いると受け入れられやすい。

代表性ヒューリスティック

代表性ヒューリスティックとは
特定のカテゴリーにおいて典型的と思われる事項の起こる確率を過大に評価する。
代表性ヒューリスティックの例
繁華街で出会うのは「高校生」と「素行不良の高校生」のどちらの確率が高いか?という質問では、本来は母集団である「高校生」の確率が高いが、「素行不良の高校生」の確率が高いように感じる。
情報デザインへの応用
典型を利用する情報の提示は応用範囲が広い。例えば「青と赤」という色分けや「ズボンとスカート」というアイコンで性別を表示することができる。また顔や全身を表示しなくても、着物を着ている人が写った写真の部分を示せば「日本人が写っている」と思わせることができる。

シミュレーションヒューリスティック

シミュレーションヒューリスティックとは
詳細なシミュレーションを行った結果、ある事項の起こる確率を実際以上に評価する。
シミュレーションヒューリスティックの例
地震が起こると、津波が起こり、原発の予備発電機が浸水し、原発が機能停止するので危険だ。
情報デザインへの応用
伝えたい情報の強調に用いることができる。保険などのリスクマネジメントにかかわるビジネスでは、集客の過程で顧客にシミュレーションさせ、サービスの必要性を訴える。

再認ヒューリスティック

再認ヒューリスティックとは
初めて聞くものより、以前に聞いたことがあるものを過大に評価する。
再認ヒューリスティックの例
選挙では政策を判断するのではなく、名前を聞いたことがある人に投票する傾向がある。
情報デザインへの応用
「露出を高める」という基本的な広告手法はこれに基づく。また「芸能人のスキャンダル」や「炎上マーケティング」も同様の効果を狙ったものである。事件のデメリットよりも再認ヒューリスティックによる認知度向上のメリットのほうが高い場合には有効であったと判断される。

保有効果

保有効果とは
あるものの状態や価値を、持っていない場合よりもすでに持っている場合に高く評価する。「失う痛みは、得る喜びの2倍である」という実験結果がある。「コインの裏が出ると1万円失うが、表が出たらY円もらえる。Yがいくらならこのゲームに参加しますか?」という質問では、Yは2万円に近くなる。通販で用いられる「気に入らなかったら返品、返金に対応します」という手法は保有効果を匠に利用している。
保有効果の例
フリーミアムビジネスでは「一部無料」にすることで、途中まで得た情報やコンテンツ、それに費やした時間を無駄にしたくない気持ちを煽り、購入を促す。
情報デザインへの応用
ある情報への継続的な接触は上記「再認ヒューリスティック」により、よい印象を与える効果がある。ボールペンやうちわなどのノベルティは、一度貰うとなかなか捨て難い(保有効果)ため、継続的な広告効果を得ることができる。

現状維持バイアス

現状維持バイアスとは
現在の状況から変化することを回避する傾向を持つこと。
現状維持バイアスの例
携帯電話のキャリア(docomo、au、softbankなど)を変えることに抵抗を感じる。
情報デザインへの応用
新しい情報を提示する際は、現在保有している情報を確認しながら、その情報に共感を示すことで新しい情報へのハードルを下げる。例えば製品やサービスの営業では、ユーザーが現在使用している同種の製品やサービスの話をよく聞き、ユーザーの感じているメリットとの共通点を見出す。

フレーミング効果

フレーミング効果とは
実質的には同じ内容の事柄を、提示方法を変えることで意思決定に影響を及ぼす効果。
フレーミング効果の例
「脂肪25%の牛肉」よりも「赤身75%の牛肉」の牛肉のほうがよく売れる。
情報デザインへの応用
フレーミング効果は特に「情報の受け入れやすさ」に影響を及ぼす。「死亡率5%の手術」よりも「生存率95%の手術」のほうが、また「一人を残して全員死亡した事故」よりも「奇跡的に一人が助かった事故」のほうが受け入れやすい。事実を伝えながらも、受け手の気持ちを考えた情報発信が可能である。

後知恵バイアス

後知恵バイアスとは
過去に起こった事象を予測可能であったように思う傾向。
後知恵バイアスの例
「だから言ったのに」や「本当はわかっていたんだけど」という評価や言い訳。
情報デザインへの応用
一度軽く触れた情報をあとで詳しく説明すると、理解度が高まる。これは実際の理解度に影響があったというよりは、後知恵バイアスの効果が大きい場合もある。読書前に目次に目を通すことや、会議やプレゼンで冒頭に概要を説明することなどはこの効果が期待できる。

確証バイアス

確証バイアスとは
先入観で判断した事項を強化する情報を集めたり、不利な情報を無視する傾向。
確証バイアスの例
邪馬台国の畿内説と九州説の議論。
情報デザインへの応用
確証バイアスを用いて効果的な情報デザインができる、というよりも、情報をまとめ、提示した際に、その論拠や展開に確証バイアスがかかっていないことを確認する必要がある。客観性を欠き、結論ありきで展開したストーリーは説得力にかける。

まとめ

情報の受け手としては、意図的に情報量を調整したり、提示方法を変えたりすることで、答えを誘導することができる、ということを知っている必要がある。逆に情報の発信者としては、誤解を生じないような情報の提示方法が求められる。

参考

記事のデータ

公開日2012年8月3日
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