システム構築のための分割

法律をつくる、規模の大きなイベントを企画する、建物や機械の設計をする、といった、規模が大きく複雑な問題やプロジェクトは、全体を把握するのが難しく、問題解決や実行の際に何から着手すれば良いのかわからなくなる。これに取り組むには、マネジメントするための組織や制度(=システム)が必要である。
システムの構築は、問題やプロジェクトの全体を規定し、それを分割することから始まる。複雑な物事を分割することで、認識や実行のハードルを大きく下げることが出来る。しかし、その分割の設計が良くない場合、全体のクオリティが下がったり、ひどい場合は目標を達成できないことさえある。
システム構築の第一歩である「分割」がうまくいかない原因と、その解決方法について考察した。
複雑な物事の分割
規模が大きく複雑な「全体:Whole」→(Divide:分割)→理解や作業が出来る「部分:Part」

分割後によくある問題
- 1:部分が大きすぎる
- 部分が大きすぎて、複雑さが解消されていない
- 2:部分の大きさにばらつきがある
- 部分の大きさにばらつきがあり、人や予算の配分が難しい
- 3:部分の優先順位がわからない
- 最適な処理順序がわからない
- 4:部分として独立していない
- 他の部分からうける影響が大きすぎる
- 5:全体の理念やコンセプトが共有しにくい
- 全体とは異なる方針で部分が実行される
- 6:全体として筋が通っていない
- 部分同士がの連携が悪く、筋が通っていないように見える
- 7:部分を全体に再構築した際に抜けや漏れがある
- 全ての部分を集めたときに、足りない部分がある
- 8:部分の追加や削除がやりにくい
- 部分の加減が難しく、途中で修正や調整ができない
- 9:部分の担当者のモチベーションが下がる
- 部分が全体に与える影響が見えづらく、やる気が起きない
- 10:部分や分割方法に汎用性がない
- 似たような問題の解決に同じ部分を使い回したり、同じ分割方法を適用できない
分割時の問題が起こる理由
- 全体が把握できていない(よくある問題の6、7、8)
- 対応しなければいけない問題の範囲を規定できていない状況。設計者の経験不足や、設計に十分な時間をかけられない場合に起こる。
- 分割の基準が適切ではない(よくある問題の1から4)
- 分割の仕方に問題がある状況。既存の慣習や個人の感覚のみで分割した場合に起こる。
- モジュール化されていない(よくある問題の4から10)
- 部分同士の接続が悪く、汎用性がない状況。分割時に全体しか見ていない、あるいは部分しか見ていない場合に起こる。
上手く分割するには
1:全体をきちんと規定する
- ブレインストーミングなどを繰り返し、MECEとなっていることを確認する
- 達成すべき目標や対応すべき範囲を欲張り過ぎない
- 時間や予算などはできる限り余裕をもってすすめる
全体の規定が誤っていると、以下に記したような分割やモジュール化もうまくいかない。
2:適切な分割の基準を採用する
- 分類や組織化の基準である「LATCH」を利用する
- 解決や実行に充てられる時間や予算、人員に応じて、部分の大きさを調整する
通常は一つの基準で分割するが、複数の基準で判断しながら調整することも可能である。
3:モジュール化を意識する
- 部分の前後のつながりを考える
- マクロとミクロの2つの視点でモジュール化する
モジュールとは、きちんとデザインされた部分であるといえる。
モジュール化の2つのアプローチ
- マクロからのアプローチ
- 全体を分割してモジュール(部分)をつくる
- ミクロからのアプローチ
- モジュール(部分)をグループ化(結合)して全体をつくる
2つのアプローチの比較
マクロ | ミクロ | |
---|---|---|
抜け漏れ | 起こりにくい | 起こりやすい |
俯瞰性 | 高い | 低い |
統一感 | ある | ない |
設計者の人数 | 少ない | 多い |
スピード感 | 早い | 遅い |
適用出来る規模 | 小〜大 | 小から中 |
作業者、設計者の経験値 | 多い | 少ない |
クリエイティビティ | 低い | 高い |
部分の独立性 | 低い | 高い |
汎用性 | 低い | 高い |
可変性 | 低い | 高い |
可用性 | 低い | 高い |
担当者のモチベーション | 低い | 高い |
悪いシステムは、マクロの視点で分割するのみでとどまっている。良いシステムは、マクロの視点で分割し、ミクロの視点で調整する、というように、両方の視点を用いてモジュールを設計している。両方の視点を用いると、モジュールの設計精度が高まり、結果として全体のクオリティー向上が期待できる。
なお、モジュールをさらに小さなモジュールにすることは際限なく可能であるが、細かくなりすぎると逆に複雑性が増してしまう。
まとめ
システム構築の第一歩は全体の規定と適切な分割から始まる。分割ができたら、前後のつながりを意識して、マクロとミクロの二つの視点でモジュール化し、システムを洗練させる。
参考
記事のデータ
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公開日 | 2017年4月28日 |
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