ファミコンから学ぶ情報デザイン・3

ファミコンのヒットゲームには、参考にするべきデザインや表現、情報伝達の方法が数多くみられる。
ドンキーコング
- ゲーム名
- ドンキーコング
- メーカー
- 任天堂
- 発売年
- 1983年
- 世界販売本数
- 113万本
- ゲーム概要
- マリオを操作してドンキーコングにさらわれたレディを助ける、一画面固定アクションゲーム。現在では任天堂を代表するゲームキャラクターとなったマリオが初登場する、記念碑的作品。
ステージ

工事現場を模したステージはコミックやアニメで人気の「ポパイ」の一場面をモチーフとしている。ゲームの目的は「レディを助けること」であるが、アクションとしての目的は「画面上部に到達すること」である。これを示すべく、次のような工夫がなされた。
ポイント
- はしご、樽、火の玉
- まず、画面上に「はしご」を設置した。最下層にいるマリオははしごを登ることを緩やかに誘導されている。次に、ドンキーコングが「樽」を落としてマリオの邪魔をする。樽が画面左下の「ドラム缶」に達すると、「火の玉」が登場し、マリオを画面上部へと追い立てる。
- cf.実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択
- メッセージによる補足
- アーケード版ではステージ開始時「HOW HIGH CAN YOU TRY?」あるいは「HOW HIGH CAN YOU GET?」のメッセージが表示される。これも「画面上部に到達すること」を示唆している。
- ステージの終わり
- アーケード版では各ステージをクリアすると、マリオとレディの間にハートが表示される。しかしドンキーコングがレディをさらい、更に上に登っていく。ハートにはひびが入り、ゲームが続くことを印象づける。
キャラクター

ゲーム開始時、画面上には3人のキャラクターが存在する。主人公のマリオ(Mr.Videogame)、ヒロインのレディ(ポリーン)、敵役のドンキーコングである。ゲーム「ドンキーコング」はもともとは「ポパイ」を想定して開発が進められていたが、版権の問題で前述のキャラクターに交代した経緯がある。
ポイント
- 「ポパイ」と「ドンキーコング」
- 「ポパイ」と「ドンキーコング」を比較すると、ポパイはマリオ、オリーブはレディ、ブルートはドンキーコングに相当する。「ポパイ」の内容であれば「ポパイがブルートからオリーブを助ける」という共通認識を利用してゲームを作ることができたが、オリジナルのキャラクターを使用することで説明しなければならない設定が格段に増えた。
- アニメーションによる補足
- 今でこそ「マリオがレディ(あるいはピーチ姫)を助ける」という暗黙の了解があるが、当時はこの設定の表現に苦労したようだ。アーケード版「ドンキーコング」では、ゲームスタート時にドンキーがレディをさらって逃げるアニメーションを見ることができる。これで大まかな状況を説明することに成功した。
サウンド

ファミコンのローンチタイトルとして発売されたドンキーコングは、その後のゲームに少なくない影響を与えている。特にアーケードで人気を博した同ゲームを、機能に劣る家庭用ゲーム機にどのように移植するか、という点については苦心の跡が見られる。
ポイント
- オープニング
- ドンキーコングのゲームスタート時には少し不穏なBGMが流れる。これはファミコン版において、上述の「レディがさらわれるシーン」がカットされており、そのシーンのBGMをそのまま使ったためである。容量の問題などもあると思われるが、説明不足であることは否めない。
- 動作音
- マリオが歩いたりジャンプすると連動して独特な効果音が鳴る。操作に対する音でのフィードバックがあると、操作していて心地よさを感じる。これは続編である「ドンキーコングJR.」ではさらに強調されることとなる。
- ハンマー
- ステージ上に配された「ハンマー」を手にすると、逃げるか飛び越すしかできなかった敵キャラクターを倒すことができるようになる。勇ましい音楽はマリオが「強くなった」ことを示すのに十分な効果がある。この演出は「ほうれん草を食べて強くなったポパイ」が元ネタであると推測される。
グラフィックとカラー

「認知度の高い情報」や「その文化での常識」を使うことで、説明をシンプルにすることができる。また、共通の色を用いることで関係性を示す手法も用いられている。
- 敵キャラクター
- 敵キャラクターは「樽」「火の玉」「ジャッキ」「おじゃま虫」などであるが、「触ると危険」な見た目や動きを採用し、敵であることを示している。マリオが「ハンマー」を装備すると、各敵キャラクターの見た目や動きが変化し、立場が逆転したことを示す。
- マリオ
- マリオが赤青のウェアを着ているのはアメリカ文化における「正義のヒーロー」のカラーリングに基づく。スパイダーマンやスーパーマン、キャプテンアメリカなど枚挙に暇がない。同時にレディの服はピンク色であり、これもアメリカ文化で「女性」を表す色である。
- レディのアイテム
- ステージ上には帽子、ハンドバッグ、傘などが落ちており、これを集めると得点が加算される。これらはすべてピンク色で描かれており、レディの持ち物であることがわかる。なおアーケード版では、レディが逃げるときに持ち物を落としながら逃げる様子がアニメーションで描かれており、その情報を補完している。
- cf.ゲシュタルトの法則
まとめ
「ゲームのユーザーは説明書を読まない」を前提に、如何にゲームに引きこむか、また製作者の意図したとおりにプレイさせるかを工夫している。一方で、ファミコン版「ドンキーコング」では、大ヒットしたアーケードゲームの移植という理由から、ユーザーの経験に頼り、かなりの要素が省かれていることもわかった。
参考
記事のデータ
文責 | |
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公開日 | 2012年7月19日 |
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タグ | ビジュアルデザイン/フィードバック/ユーザビリティ/ユーザーエクスペリエンス/実践例/情報を伝える/情報を表現する/意図した通りに伝える/技術と手法 |
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