目で見る言葉

文字は言葉を表記するのに用いられる符号である。一方、言葉を絵で表す方法もあり、文字同様広く使われている。文字の代わりに絵を用いる理由や、絵を用いたほうが効果的なケースを考える。
歴史上の目で見る言葉
洞窟壁画
有史以前に洞窟や岩壁に描かれた絵。最古のものでは約3万2千年前に描かれたもの(ショーヴェ洞窟・フランス)がある。洞窟壁画に描かれた題材の多くは大型の野生動物であり、その時代の文化や信条を推測する手がかりとなっている。

ラスコー洞窟の壁画は先史時代の美術作品としても評価されている。
漢字、西夏文字、東巴文字
漢字は紀元前十数世紀の殷の時代には用いられていたとされる象形文字の一種。東巴文字(トンパ文字)はチベット東部や雲南省北部の少数民族に伝わる象形文字で、7世紀ごろに創作されたと考えられている。西夏文字は西夏王朝(1032~1227、現在の中国西北部に存在した王朝)時代に制定された。

現在も使われている文字が「目で見る言葉」を起源にしていることは興味深い。
江戸時代、明治時代の判じ物看板
「判じ物」と呼ばれる、語呂やなぞかけを使った言葉遊びが流行した。これを絵で表した「判じ絵」も好まれ、それを使用した「判じ物看板」も多く見られた。
判じ物、判じ物看板の例
- 「春夏冬中」が「営業中(あきない中)」
- 「十三屋」が「櫛(九四)屋」
- 「板に書いた『わ』の字」が「風呂屋(湧いた)」
- 「暴れ馬の絵」が「饅頭屋(あれうまし)」

「判じ物看板」は情報伝達だけが目的ではない。ほどよい遊び心やこだわりが感じられ、江戸時代の文化の豊かさが伺える。
グラフィカルシンボル
グラフィカルシンボルは日本語で「図記号」に相当する。国際標準化機構(ISO)によって国際標準化が進められる。
アイソタイプ
オットー・ノイラート(哲学者・オーストリア)とゲルト・アルンツ(グラフィックデザイナー・ドイツ)がデザインしたピクトグラム。単純で非言語的な方法で情報伝達することを目的とした。その後登場する標識やインフォグラフィックの様式に影響を与えた。
ピクトグラム
狭義のグラフィカルシンボル。意味するもの、伝達するものの形状を使って、その意味や概念を表す形象。事前の学習を必要とせず、即時的、国際的に理解できる必要がある。

ピクトグラムの誕生
国内の言語が単一ではないヨーロッパ地域で、スイッチやインターフェースなど商品の操作部分のデザインを統一するために発生したとされている。
ピクトグラムの基準
- 民族や文化の壁を超えて、誰でも直感的にわかる絵や記号であること
- サイズの大小を問わず、シンプルで視認性が良いこと
- デザインに一貫性、統一性があること
- 誰が見ても不愉快な思いや誤解を生じないこと
アイコン
一般に「アイコン」とは、コンピュータ上の記号表記を指すことが多い。複雑なプログラムの内容やコンピューターの操作を図や絵を使うことで分かりやすくしている。
人工表意文字
ブリスシンボル
チャールズ・ブリス(オーストリア)によって開発された表記体系。数百の基本的な記号で概念をあらわし、それらを組み合わせることで別の概念を表現する新しい記号を生成できる。

LoCoS
太田幸夫(日本・多摩美術大学教授)によって開発された視覚言語。絵ことばを使ったコミュニケーションシステム。太田氏は非常口のマークや経済産業省のシンボルマークをデザインしたことでも知られる。
人工絵文字
- 電子メールの顔文字
- 携帯電話の絵文字
何故言葉を絵で表すのか
- 文字が存在しない
- 文字が存在しない時代や文化では言葉を絵で表していた
- 文字を読めない人々の為に
- 外国人、幼児など文字を読めない人に対して情報を伝えたい際、言葉を絵で表す
- 迅速な情報伝達手段として
- 文字よりも短時間で情報を伝える必要がある場合に有効である
- 単純化のフィルターとして
- 同じ内容を説明するのに文字よりも絵のほうがハードルが低く感じられる
- より深度の深いコミニュケーションの手段として
- 文字よりも気持ちが伝わりやすい効果がある
参考
記事のデータ
文責 | |
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公開日 | 2012年5月17日 |
カテゴリー | |
タグ | ビジュアルデザイン/ユーザビリティ/情報を表現する/意図した通りに伝える/技術と手法/歴史 |
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