マンガと情報デザイン・1(制限と特徴)

マンガは、日本が世界でリーダーシップを執り、それをさらに発展させる可能性がある数少ないメディアのひとつである。マンガはテレビなど他のメディアに比べると、表現するための環境や手段に制限が多く、それ故に独自の表現方法が編み出されてきた。マンガ独自の表現方法を整理し、分析することで、他のメディアでの情報の表現や伝達に応用できる手法を見出す。全5回。
マンガのメディアとしての特徴
メディア毎に比較すると、マンガは使用できる表現の手段が少ないことがわかる。
文字 | 色 | 絵 | 音 | 動画 | 伝達媒体 | |
---|---|---|---|---|---|---|
テレビ | △ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | 画面、スピーカー |
ラジオ | × | × | × | ◎× | スピーカー | |
新聞 | ◎ | △ | △ | × | × | 新聞紙 |
書籍 | ◎ | △ | ○ | × | × | 上質紙 |
インターネット | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | 画面、スピーカー |
TVゲーム | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | 画面、スピーカー |
マンガ | △ | △ | ○ | × | × | 更紙 |
文字情報を提供するラジオやテレビのデジタルデータ放送、カラーページの新聞や書籍なども一般的ではあるが、主に利用される手段を評価の基準とした。またテレビはリビングで視聴する場合を、書籍やマンガについては書き下ろされるハードカバーやマンガ雑誌を想定している。
マンガに課せられた制限
- 音がない
- マンガには音がないので、登場人物の台詞や効果音の表現を工夫する必要がある。
- 動きと連続性がない
- マンガは2次元である紙の上で物語が進行するので、動きや物語の連続性が表しにくい。
- 単色印刷である
- マンガは質の良くない紙に単色で印刷される事が多いため、それを考慮して描く必要がある。
- 文字数の制限がある
- 書籍に比べると1ページに表示できる文字数が圧倒的に少ない。
- 文字や絵で表せない事柄の表現
- 感情や状況など、文字や絵で表せないものや、文字や絵で表すと意図から外れるものについての表現を工夫しなければならない。
手塚治虫の考えるマンガの特徴
マンガの大家として知られる手塚治虫氏は、マンガの表現上の特徴を次のように挙げた。
- 省略
- 誇張
- 変形
手塚氏はこれらの特徴が幼児の絵の特徴に類似していることを指摘しているが、それぞれ次のような解釈をすることもできる。
- 省略
- 単色で質の良くない紙へ印刷しても絵が潰れないよう、簡潔で明瞭な線で描画すること
- 誇張
- 文字や絵で表せないものを誇張した絵で表現すること
- 変形
- 絵を変形させることで、動きや連続性を表現すること
マンガ研究家の考える漫画の特徴
一方、マンガ研究家である竹内オサム氏は著書「マンガ表現学入門」の中で、マンガ独自の表現として次の5つを挙げている。
- 構造化されたコマ
- 吹き出し
- 登場人物が連続して描かれる
- 特有の記号
- 擬声語、擬態語の描き込み(描き文字)
これらについても、手塚氏が考えるマンガの表現上の特徴と同様に、次のように解釈することができる。
- 構造化されたコマ
- 動きと物語の連続性の表現を実現
- 吹き出し
- 音の表現を実現
- 登場人物が連続して描かれる
- 動きと物語の連続性の表現を実現
- 特有の記号
- 文字や絵で表せない事柄の表現と、動きと物語の連続性の表現を実現し、同時に文字数の制限を克服
- 擬声語、擬態語の描き込み(描き文字)
- 音の表現を実現し、同時に文字数の制限を克服
これらの解釈から、「表現の手段に制限がある中で、どのように物語を展開していくか」を追求した結果として、マンガ独自の表現方法が確立してきたと推測できる。課せられた表現の制限が結果として特徴になることは、他のメディアでもみられる。
一方、現在主流となっているマンガスタイルの発端が、新聞の風刺マンガや4コママンガ、また子供向けの作品であったりする歴史的背景も、マンガの特徴に大きな影響を与えている。
他のメディアとの切磋琢磨
マンガで用いられる様々な表現方法には、他のメディアの表現方法を参考にしてきたものもあり、逆にマンガの表現が他のメディアに用いられることも多くなっている。それぞれのメディアがもつ独自の表現方法を互いに取り入れることで、より豊かな表現が可能となっている。
他のメディアと比較したり、マンガの特徴について考えると、「マンガの文法」のようなものが存在していることがわかる。作者はこれに従ってマンガを描き、読者はそれを前提にマンガを読んでいる。これは「マンガのリテラシー」と言い換えることもできる。
マンガの進化の方向性
Kindle(Amazon)の日本展開やkobo(楽天)の発売、Nexus7やiPad miniのヒットなどで電子書籍の普及がすすむ環境が整った。マンガを電子書籍として読むことが一般的になれば、これまでマンガに課せられていた制限が取り除かれる可能性がある。
- コマの中で登場人物が動いたり、しゃべったりする
- コマ毎に適切な効果音やBGMが流れる
- カラーで描かれる
- 詳細な解説を付記できる
ちょうど「紙芝居」のように、キャラクターが喋るデジタルマンガはすでに登場している。また、電子書籍版のみカラーで販売することで差別化している出版社もある。しかし、アニメとの差別化が難しくなることや、本来マンガが持つ「手軽さ」やこれまでマンガと読者との間に築かれて来た「マンガのリテラシー」が失われることを考えると、旧来のマンガのスタイルが廃れることは当分無いように思われる。
まとめ
- マンガ独自の表現方法にはコマ、吹き出し、描き文字、特有の記号などがある
- マンガ独自の表現は制限の中から生まれた
- マンガにはマンガの文法やリテラシーが存在する
参考
記事のデータ
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公開日 | 2012年11月13日 |
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タグ | おすすめ/ビジュアルデザイン/情報を表現する/技術と手法 |
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