同じであること

例えばWebデザイナーとは、Webサイトの配色や要素の配置、構成などを決める仕事である。極論すれば、知的労働において、仕事とは「決めること」であるともいえる。しかし、判断に十分な時間をかけられなかったり、判断に用いる根拠が少なかったりして、決められないことも多い。迷った時は「同じであること」を基準にすると、失敗が少ない。
同じであることによるメリットの例
構成や構造が同じ
- Webサイト
- ヘッダーやフッター、サイドバーの配置や役割が一般的なものと同じであれば、初めて訪れたユーザーでもわかりやすい。
- キーボード
- 主要なキーの配置は同じであるため、どんなPCでもスムーズに入力することができる。
- 楽器
- 楽器はメーカーが違っても、ほぼ同じように演奏することができる。操作性や製造上の効率よりも、既存ユーザーの経験を尊重した製品づくりが行われている。
操作が同じ
- テレビゲーム
- 決定はマルボタン、キャンセルはバツボタン、移動は十字ボタンというように、特定のボタンに同じ命令を適用することで、初めてプレーするユーザーにもストレスを与えず遊んでもらえる。
- 蛇口
- 反時計回りに回すと開栓、時計周りに回すと止栓、という蛇口の操作方法は多くの国で共通している。
- 本
- 横書きの本は左から、縦書の本は右から開くことで読み始めることができる。
規格が同じ
- ブルーレイ
- 「Blu-ray」と「HD DVD」の光ディスク規格争いは記憶に新しい。規格が統一されると、その規格の普及が一気に進む例も多い。互換性のない規格の乱立は市場に混乱を生む場合がある。
- 自動車のシャシー
- 目的やデザインの異なる車でも、シャシーを共通化することで高い効率で車を製造する自動車メーカーもある。シャシーにかぎらず、車の種類やメーカーの枠を超えて部品を共通化するメリットは大きい。
- OS
- PCでは「Windows」と「Mac OS」が、スマートフォンでは「Android」と「iOS」がコンシューマー市場を寡占している。ソフトウェア開発者はそれぞれ2つのOSだけをターゲットにすれば良い。
その他の例
- ブランド、メーカー
- 「このブランドなら」「このメーカーのものなら」という基準で買い物をする消費者は多い。
- デザイン、色
- とくに洋服や靴など、自分に似合うデザインや色を優先して購入することは多い。
- チェーン店
- お店の構造やメニュー、注文のフローが統一されていると、どの店舗でも安心して利用できる。
同じであることが良い理由
人は初対面の相手や初めて使う道具にはストレスを感じる。それを緩和するために、「自分の知っている誰か」や「これまでに使用したことのある何か」と共通した点があるか探す性質がある。「同じ」にすることは、その共通点を積極的に作り出す行為である。
前述のストレスは「失敗するかも」「嫌われるかも」という不安が一因となっている。これまでの「成功と失敗のデータベース」と照らし合わせることで、経験に基づいて行動できるようになる。
また「規格が同じ」で述べたように、部品の汎用性や作業の高効率化においてのメリットは計り知れない。
グローバル・スタンダード
「同じ」であることが積み重なると、業界や分野の定番の商品や規格となることがある。また、これを意図的に発生させることもある。これを「グローバル・スタンダード」という。
2種類のグローバル・スタンダード
- デジュール・スタンダード
- 公的な機関による認証
- デファクト・スタンダード
- 実質的に世界標準となっている
違うことによるメリット
とはいえ、同じであることばかりでは変化も進歩も生まれない。ともすれば旧態依然、保守的と捉えられることもある。
前述のキーボードはQWERTY配列のものが定番であるが、筐体の小さなスマートフォンでは新たに「フリック入力」を導入することで入力効率を高めることに成功した。このように、違うことで生まれるメリットと、それに必要なコスト(費用、労力など)のバランスが適切であれば、新たな展開や進化が生まれる可能性がある。
違うことによるメリットの例
- 展開力が生まれ、新たな長所を発見できる
- 規格や仕様の独占により有利にビジネスを展開できる
- 個性的で目立つデザインとなりうる
まとめ
- 迷った時や時間がないときは無理をせず「同じであること」を選ぶ
- いつも「他と同じ」では発展しない
- ユーザーに「違うこと」を許容させるにはそれなりのメリットが必要である
参考
記事のデータ
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公開日 | 2012年12月31日 |
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タグ | 企画と戦略/思考法/情報を利用する/技術と手法 |
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